サツマイモ基腐病とその対策について

サツマイモ基腐病とその対策については、農研機構をはじめとして様々な団体から情報が発信されている。現在、鹿児島県鹿屋市で実施されているスマート農業実証プロジェクトに関わっており、現地の基腐病の発生状況についても定期的に見聞きしている。全国的な広がりを見せる中で、それらの情報をもとに私なりに整理して以下にまとめる。

埼玉県川越で行ったサツマイモ基腐病対策研修会の際に話した内容をベースとしている。

サツマイモ基腐病とは

サツマイモ基腐病は糸状菌(Diaporthe destruens、旧名Plenodomus destruens)によって引き起こされ、ヒルガオ科のみ(主にサツマイモ)に寄生する。

約100年前にアメリカで発見され、南北アメリカやアフリカ、ニュージーランドなどで被害が知られていたが、この10年の間にアジア地域(中国・台湾・韓国)でも被害が発生するようになった。

2018年11月に沖縄県にて日本で初めて発生が確認され、同年に鹿児島、宮崎でも確認された。その後、福岡、長崎、熊本といった九州地域に拡大。さらに、高知、岐阜、静岡、群馬、千葉、茨城と九州以外の地域でも徐々に拡がりが確認されている。

生育温度は15~35℃(適温28~30℃)。病原菌は、茎や葉といった収穫残渣の中に残存しており、残渣を栄養源として翌年まで生存し続けている。

サツマイモ基腐病の特徴

苗の地際部分の茎が黒変する病徴から始まり、次第に地上部の茎葉、地中の塊根へと進展し、やがて地上部が枯死するようになり、塊根の腐敗にもつながる。腐敗部はカビの臭いがし、この腐敗した表面を拡大すると、糸状菌が作り出す黒い粒々が観察される。

二次伝染力が強い。水に混じって感染するので、台風や降雨後に圃場内に水が停滞すると胞子が大量に拡散され感染が拡がる。また、いも同士の接触でも感染が広がるため、外観で病徴が確認できなくても病原菌に感染していれば、貯蔵中に他の出荷用いもや種いもにも感染する。

基腐病発症圃場

サツマイモ基腐病の伝染経路と防除対策

基本方針は「持ち込まない」「増やさない」「残さない」の3点となる。
サツマイモ栽培のすべての場面での対策が必要で、手を抜いてはいけない。

一次伝染防除対策

健全苗の確保

  1. 健全な種いもの確保・選別・消毒
    病気が発生していない圃場から採取した種いもを使用する。
    病害や傷のある種いもは取り除き、伏せ込む前に消毒する。
  2. 健全な育苗圃場の確保
    殺菌効果のある薬剤で土壌消毒を行う。
    育苗終了後は、できるかぎり残渣は持ち出し、耕耘を徹底する。
  3. 育苗中の発病種いもの除去
    育苗中に発病した株は、直ちに種いもごと抜き取り、圃場外に持ち出して処分する。
  4. 育苗方法と苗消毒
    採苗用のハサミや苗の消毒は必ず採苗当日に行い、消毒液は使用日ごとに毎回調整する。

圃場の菌密度抑制

  1. 前作残渣の除去・分解促進
    収穫後の残渣は可能な限り圃場外に持ち出す。
    次作までに複数回耕耘し、残渣の分解を促進する。
  2. 土壌消毒
    殺菌効果のある薬剤で、地温15℃以上の時期に土壌消毒を行う。残渣が残っていると効果が低くなる。
  3. 輪作
    他作物の作付を行い、圃場内の菌密度を低下させる。飼料作物・緑肥・麦・露地野菜(根菜やトウモロコシ)等。(被害が大きい場合は、2年程度サツマイモは植えない)

二次伝染防除対策

発病株の除去・拡散防止

  1. 生育初期の発病株除去
    伝染源となる初期の発病株は早急に抜き取り、圃場外へ持ち出す。
  2. 薬剤による防除
    銅剤2種類とアミスター20が茎葉散布剤として登録されている。どちらも二次感染防止には有効なため、発病株を除去した後に、薬剤を複数回散布すると効果的である。
銅剤(ジーファイン水和剤、Zボルドー水和剤)は、胞子が作物内に侵入するのを防ぐ効果のみ。
アミスター20は、胞子が作物内侵入初期までに高い効果がある。発病が人間の目で認識出来る段階は、進行具合としてはかなり後期の段階。そのため、苗消毒の効果が切れてくる定植5週目ごろを目安に、発病株の抜き取りと並行してアミスター20を1回散布する。

圃場の菌密度抑制

  1. 発病の多い地域では、圃場周囲の排水路が埋没している場合が多いため、栽培前に土砂などの除去を行い、圃場外への排水性を確保する。
  2. 圃場内では、圃場を均平化した後で、明渠やまくら畝の途中を切る等、排水溝を設置し、圃場外への排水を促す。
  3. 圃場が圃場周囲よりも低く、圃場外に排水できない場合は、プラソイラなどによる耕盤破砕を徹底し、表面水の地下への浸透を促す。

その他の基腐病対策

ウィルスフリー苗の利用

関東地域での発生例は、すべて他県種苗会社から購入した苗が原因となっている。
苗購入元の種いもや育苗床が汚染されていないことが確認できない状況では、ウィルスフリーとして販売されている苗を優先的に選ぶことが推奨される。

抵抗性品種の活用

基腐病抵抗性には品種間の差がある。
鹿児島県の被害発生状況をみると、べにはるか・高系14号・コガネセンガンといった青果・焼酎用品種の被害が大きく、シロユタカ・こないしんといったでん粉用品種の被害は少ない。
抵抗性の強い品種でも、植付4か月後以降に発病率が高まるため、発病前に予防的防除をするほうが良い。

自然の発病抑止力の活用

基腐病のような土壌病害を抑止するためには、病原菌菌密度を下げることが重要。多種多様な微生物(特に有用・日和見菌)がいることにより微生物が拮抗し合い、病原菌の増加を抑止することができる。また、微生物が作物の抵抗性を誘導することもあり、菌根菌や病原性の無い、もしくは弱い病原菌が根に侵入・定着していると、病原菌の侵入や感染が阻止される場合(非病原性のフザリウム菌をサツマイモに接種することでサツマイモ蔓割れ病を防除することができる)がある。
鹿児島県においても、有機的農法を取り入れている圃場では、被害が少ないという話があり、中長期的な視点では、有機質施用による土づくりが有効な対策だと言える。